特有財産とは?対象となる財産|争われた事例と財産分与への影響

特有財産とは

離婚や財産分与について考える際、「特有財産とは何か」という疑問を持つ方は少なくありません。

特有財産は離婚時の財産分与において、大きな影響を与える重要な概念です。

結婚前から所有していた資産や相続により取得した財産が特有財産に該当するかどうかで、分与額が大きく変わることもあります。

特有財産の定義をきちんと理解していないと、本来守られるべき財産まで分与対象になってしまうリスクがあるのです。

この記事では、特有財産の基本的な定義から具体的な事例、そして証明方法まで詳しく解説していきます。

離婚に向けた準備をされている方も、将来に備えて知識を得たい方も、特有財産について正確に理解することで自分の権利を守ることができます。

目次

特有財産の定義とは?

特有財産とは、離婚時の財産分与の対象にならない個人の財産のことを指します。

結婚前から持っていた預貯金や不動産、相続や贈与によって得た財産などが主な例です。

民法上では「夫婦の一方が婚姻前から有する財産」と定められており、法律的にもしっかりと保護されています。

夫婦の共有財産ではなく、あくまでも個人に帰属する財産という点が重要なポイントとなります。

一方で、結婚後に共同で築いた財産は「共有財産」もしくは「婚姻中に取得した財産」と呼ばれ、財産分与の対象になります。

共有財産と特有財産の区別は離婚時に大きな争点になることが多いため、正確な理解が必要でしょう。

特有財産の例共有財産の例
・結婚前からの預貯金
・相続した不動産
・個人的な贈与物
・結婚前に購入した車や株
・共働きの収入から貯めた預金
・結婚後に共同で購入した家
・結婚期間中の退職金
・共同名義の資産

特有財産は基本的に財産分与の対象外ですが、例外的に分与対象になるケースもあります。

例えば、特有財産を元手に増えた利益や、夫婦共同で管理、運用していた場合は、状況によって分与の対象となることも。

そのため、「これは自分の特有財産だ」と主張するには、適切な証拠や根拠が必要になってきます。

次のセクションでは、特有財産に該当する具体的な事例を詳しく見ていきましょう。

特有財産に該当する具体的な事例

特有財産にはさまざまな種類があり、実際の判断は個々の状況によって異なります。

ここでは典型的な特有財産の例を見ていくことで、自分の財産がどのように扱われるのかを理解しましょう。

結婚前から所有していた財産は、原則としてすべて特有財産に該当します

例えば、結婚前から保有していた預貯金や投資信託、株式などの金融資産は特有財産となります。

また、親や親族から相続した遺産や贈与された財産も特有財産に含まれるのが一般的です。

婚姻中に受け取った慰謝料や損害賠償金なども、個人に対する補償であるため特有財産とみなされます。

代表的な特有財産特徴、注意点
結婚前の預貯金結婚後も別口座で管理していることが重要
相続財産遺産分割協議書などの証明が必要
個人への贈与物贈与契約書や贈与税申告書があると証明しやすい
結婚前の不動産登記簿謄本で取得時期を確認できる
個人的な賠償金、保険金受取人が個人であることが条件

しかし、特有財産だったものが時間の経過とともに共有財産に変わることもあります。

例えば、結婚前の預金を夫婦共同の口座に移した場合や、特有財産を元手に購入した資産を夫婦で共同管理している場合です。

このように財産の性質が「混合」してしまうと、特有財産として主張するのが難しくなることがあります。

さらに、結婚期間が長くなるほど、「これは特有財産だった」という証明が難しくなる傾向があるでしょう。

特有財産だと判断しにくいケース
  • 結婚前の貯金であっても、夫婦共同の生活費に使われているなら共有財産になる可能性
  • 特有財産から生じた収益(家賃収入や配当金など)の扱いが争点になるケース
  • 特有財産と認められても、増加分(値上がり益など)は分与対象になる場合がある

特有財産を確実に守るためには、結婚後も明確に区別して管理し、必要な証拠を残しておくことが大切です。

次のセクションでは、実際に特有財産をめぐって争いになったケースを見ていきましょう。

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特有財産が争われる事例とそれが財産分与に及ぼす影響

実際の離婚調停や裁判では、特有財産をめぐって意見が対立するケースが少なくありません。

ここでは特有財産が争点となった具体的な事例を紹介し、どのように判断されたのかを見ていきましょう。

住宅ローンの頭金を支払った事例

夫婦で住宅を購入する際、一方が結婚前から貯めていた預金を頭金として使うケースは珍しくありません。

この場合、頭金として使った金額は本来、特有財産として認められるべきものです。

例えば、夫が結婚前に貯めた500万円を頭金として使い、その後は夫婦共同で住宅ローンを返済していたケースを考えてみましょう。

離婚時に住宅の清算をする場合、この500万円部分は夫の特有財産として優先的に返還されるのが原則です

ただし、長期間の婚姻関係があった場合や、家族のために使ったという事実から、全額が認められないケースもあります。

裁判例では、結婚期間が15年を超えるようなケースでは、頭金の貢献度が低くなる傾向が見られます。

特有財産として認められるためには、「これは自分の特有財産を使った」という合意や記録を残しておくことが重要でしょう。

契約書や振込記録などの証拠を保管しておくと、後の交渉で有利に働きます。

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長期間の結婚生活で蓄えた預金

結婚生活が長期間に及ぶと、どの財産が特有財産で、どれが共有財産なのかの区別が難しくなります。

例えば、結婚20年のカップルの場合、結婚前の預金と結婚後の預金が同じ口座で管理されていることもよくあります。

このように資金が混ざってしまった状態では、結婚前の預金(特有財産)を特定するのは困難です。

長期間の結婚では、特有財産と主張する側が明確な証拠を提示できなければ、共有財産として扱われる可能性が高いでしょう。

裁判所も、長年連れ添った夫婦の場合、財産形成への双方の貢献を重視する傾向があります。

特に専業主婦(夫)の場合、直接的な経済的貢献はなくても、家事や育児による間接的な貢献が認められます。

この場合の解決策としては、結婚時点での財産状況を記録しておく、特有財産用の口座を別に設けるなどの対策が有効です。

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預貯金の無駄遣いが明らかになった事例

一方の配偶者が共有財産を浪費したり、隠したりするケースも少なくありません。

例えば、夫が妻に内緒でギャンブルに家族の貯金を使っていたような場合です。

このようなケースでは、浪費された金額は「婚姻費用の不当な出費」として、財産分与の計算で考慮される可能性が高いでしょう。

裁判所は、このような不当な出費があった場合、清算の対象として計算に含めることがあります。

例えば、夫が300万円を無断で使った場合、その金額を夫の取り分から差し引くといった調整が行われます。

ただし、これを証明するには、銀行の出入金記録や使い道を示す証拠が必要になってきます。

日頃から家計の出入りを把握し、不審な出費があれば記録しておくことをおすすめします。

月々の小遣いの取り扱いについて

夫婦それぞれの小遣いから貯めた預金は、特有財産になるのでしょうか?

基本的に、婚姻中に得た収入から分配された小遣いで貯めた預金や購入した物品は、共有財産とみなされます

例えば、毎月の給料から5万円を小遣いとして受け取り、それを貯めて200万円になった場合、この200万円は共有財産です。

ただし、「小遣いの範囲内なら自由に使って良い」という夫婦間の合意があった場合は、状況が変わることもあります。

このような合意があれば、小遣いから貯めた預金や購入した物品は特有財産として認められる可能性が高まります。

しかし、高額な買い物や資産形成につながるものは、たとえ小遣いから出したとしても共有財産とみなされるケースが多いでしょう。

特有財産として認められやすいもの共有財産とみなされやすいもの
・趣味の収集品(価値が限定的なもの)
・個人的な衣類や身の回り品
・少額の預金
・高額な装飾品や時計
・投資用の株式や不動産
・まとまった額の貯金
・自動車などの高額な物品

夫婦間でのトラブルを避けるためにも、小遣いの使い方や貯金についてはあらかじめ話し合っておくことが大切です。

次のセクションでは、特有財産の証明責任について詳しく見ていきましょう。

特有財産について証明を示さなければならないのか?

特有財産を主張する際に、最も重要になるのが「証明責任」の問題です。

「これは私の特有財産だ」と主張するだけでは不十分で、それを裏付ける証拠が必要になります。

①立証責任の定義とは

立証責任とは、ある事実を主張する側が、その事実を証明する義務を負うという法律上の原則です。

離婚における財産分与の場面では、「特有財産である」と主張する側が、その財産が特有財産であることを証明する責任を負います

例えば、「この1,000万円は結婚前から持っていた貯金だ」と主張する場合、それを裏付ける証拠を示す必要があるのです。

証明できなければ、原則としてその財産は「婚姻中に形成された共有財産」と判断されてしまいます。

特に注意したいのは、結婚生活が長期間に及ぶほど証明が難しくなるという点でしょう。

10年、20年と時間が経過すると、最初に持っていた財産の証拠が残っていないことも多いです。

そのため、特有財産として守りたい財産がある場合は、早い段階から証拠を残しておくことが重要になります。

②特有財産の主張を行う場合

特有財産を主張する際には、以下のような点に注意する必要があります。

まず、特有財産と主張するなら、その財産の出所や取得時期を明確に示せる証拠を用意しましょう

具体的には、結婚前の通帳の写し、相続関係の書類、贈与を証明する書類などが有効です。

次に、その財産が婚姻中にどのように管理されていたかも重要なポイントになります。

特有財産として認められるためには、夫婦の共同財産と明確に区別して管理されていたことが望ましいのです。

例えば、結婚前からの預金を結婚後も別口座で管理し続けていたなら、特有財産として認められる可能性が高まります。

反対に、夫婦共同の口座に移したり、共同で管理していたりすると、特有財産性が失われる恐れがあります。

特有財産と認められやすい管理方法特有財産と認められにくい管理方法
・結婚前と同じ口座で別々に管理
・特有財産専用の口座を作る
・財産目録を作成して明確に区分
・夫婦共同の口座に入金
・家族全員で利用する
・他の共有財産と混ぜて管理

また、財産の性質によっても立証の難易度は変わってきます。

不動産のように登記がある財産は比較的証明しやすいですが、現金や貴金属など形跡が残りにくい財産は証明が難しいでしょう。

ここで重要なのは、疑わしい場合は「共有財産」と推定されるという原則です。

つまり、特有財産であることが明確に証明できなければ、原則として分与の対象になってしまうのです。

このような事態を避けるためにも、次のセクションで説明する特有財産の証明方法をしっかり押さえておきましょう。

特有財産を証明する方法

特有財産を確実に守るためには、適切な証明方法を知っておくことが大切です。

ここでは具体的な証明方法と、日頃から心がけておくべき対策を紹介します。

特有財産を証明する最も確実な方法は、客観的な証拠書類を保管しておくことです

結婚前からの財産であれば、結婚時点での通帳のコピーや残高証明書が有力な証拠になります。

相続や贈与による財産の場合は、遺産分割協議書や贈与契約書、贈与税の申告書などを保管しておきましょう。

不動産については、登記簿謄本で取得時期や所有者の変遷を確認できるため、比較的証明しやすい財産です。

特有財産別の証明方法
  • 婚姻前の財産:結婚時点の通帳コピー、残高証明書、資産一覧表
  • 相続財産:遺言書、遺産分割協議書、相続税申告書のコピー
  • 贈与財産:贈与契約書、振込記録、贈与税申告書のコピー
  • 不動産:登記簿謄本、購入時の契約書、ローン返済記録

また、財産の管理方法も重要な証明ポイントになります。

特有財産は、結婚後も夫婦の共有財産とは別に管理していることが望ましいでしょう。

例えば、結婚前からの預金は別口座で管理する、相続で得た不動産は自分名義のままにしておくなどの方法があります。

共有口座に移したり、夫婦で共同利用したりすると、特有財産としての性質が薄れてしまう可能性が高いので注意が必要です。

さらに、夫婦間で財産について話し合っておくことも有効な対策となります。

「この財産は結婚前からのもので特有財産として扱う」という合意を書面にしておけば、後の争いを防げるでしょう。

こうした合意書は公正証書にしておくと証拠力が高まりますが、私文書でも一定の効力はあります。

証明の種類具体的な方法証明力
客観的証拠通帳、契約書、登記簿謄本など
管理状況の証明別口座での管理、個人名義の維持
夫婦間の合意書財産リストの作成、公正証書化
第三者の証言親族や友人の証言、専門家の意見書

実際の離婚調停や裁判では、これらの証拠を組み合わせて特有財産であることを立証していくことになります。

特に重要なのは、「いつ」「どのように」その財産を取得したのかという経緯を明確に示せる証拠です。

証拠がなくて特有財産の主張が認められなかったケースは数多くありますので、早い段階から意識的に記録を残しておきましょう。

不安がある場合は、弁護士や専門家に相談して適切なアドバイスを受けることもおすすめです。

次のセクションでは、特有財産に関するよくある質問にお答えします。

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よくある質問

特有財産について理解を深めるため、読者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

疑問点の解消にお役立てください。

よくある質問
  • 特有財産と財産分与の関係について教えてください。
  • 結婚前から所有していた不動産は特有財産になりますか?
  • 特有財産の証明ができない場合はどうなりますか?
  • 特有財産を生活費に使ってしまった場合の対応方法を教えてください。
  • 株式や車などの具体的な特有財産の例を教えてください。
  • 特有財産が相続対象になる場合はありますか?
  • 結婚後に取得した財産が特有財産になるケースはありますか?
  • 特有財産と民法の関係について解説してもらえますか?
  • 特有財産に関する法律相談はどこに依頼すべきですか?

特有財産と財産分与の関係について教えてください。

特有財産は原則として財産分与の対象外です。

一方、婚姻中に夫婦で築いた共有財産のみが分与の対象となります。

ただし、特有財産から生じた収益や増加分は状況によって分与対象になることもあります。

結婚前から所有していた不動産は特有財産になりますか?

基本的には特有財産になります。

ただし、ローンを婚姻中に夫婦で返済していた場合や、リフォームなどで価値が上がった部分は共有財産とみなされる可能性があります。

登記簿謄本で取得時期を証明できるのが強みです。

特有財産の証明ができない場合はどうなりますか?

特有財産であることを証明できない場合は、原則として共有財産とみなされ、財産分与の対象になります。

証拠がないまま「これは自分の特有財産だ」と主張しても、認められることは難しいでしょう。

特有財産を生活費に使ってしまった場合の対応方法を教えてください。

一度生活費として使用した特有財産は、通常、取り戻すことはできません。

ただし、「一時的に貸した」という明確な合意があり、それを証明できる場合は例外となる可能性もあります。

株式や車などの具体的な特有財産の例を教えてください。

結婚前に購入した株式や車は特有財産です。

ただし、婚姻中の値上がり分は共有財産となる場合があります。

また、車の場合は維持費を夫婦で負担していたなら、完全な特有財産とはみなされにくいでしょう。

特有財産が相続対象になる場合はありますか?

特有財産は当然、相続の対象になります。

例えば配偶者が亡くなった場合、その方の特有財産は法定相続人に分配されます。

財産分与と相続は別の制度なので混同しないようにしましょう。

結婚後に取得した財産が特有財産になるケースはありますか?

結婚後でも、相続や個人への贈与で得た財産、個人的な賠償金や保険金などは特有財産になります。

また、「これは特有財産とする」という夫婦間の明確な合意があれば、結婚後の財産でも特有財産になり得ます。

特有財産と民法の関係について解説してもらえますか?

民法762条で「夫婦の一方が婚姻前から有する財産」を特有財産と定めています。

また民法768条で財産分与の対象は婚姻中に協力して得た財産とされ、特有財産は原則として除外されています。

特有財産に関する法律相談はどこに依頼すべきですか?

弁護士や司法書士などの法律専門家に相談するのがおすすめです。

特に離婚問題を専門としている弁護士事務所なら、特有財産の扱いについて適切なアドバイスが受けられるでしょう。

まとめ

特有財産とは、結婚前から所有していた財産や相続、贈与により取得した財産のことで、基本的には財産分与の対象外となります。

しかし、特有財産として認められるためには、その事実を証明する必要があります。

特に長期間の結婚生活では、特有財産と共有財産の区別が曖昧になりやすいため、早い段階から証拠を残しておくことが大切です。

結婚前の預金や不動産などは特有財産の典型例ですが、夫婦共同で管理していたり、生活費に使ったりすると、特有財産としての性質が失われる可能性があります。

特有財産を主張する際は、通帳のコピーや登記簿謄本など客観的な証拠が重要で、特有財産の管理方法によっても判断が左右されます。

不安がある場合は早めに弁護士などの専門家に相談し、自分の権利を守るための適切なアドバイスを受けることをおすすめします。

離婚は誰にとっても大きな人生の転機です。

特有財産についての正しい知識を持ち、トラブルなく公平な財産分与ができるよう備えておきましょう。

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