不倫慰謝料請求の時効|請求権を守るための具体的手段を解説

不倫が発覚したとき、慰謝料請求ができる期間が限られていることをご存知でしょうか?
「不倫の時効」という言葉を耳にしたことがある方も多いはずです。
実は不倫の慰謝料請求には時効があり、その期間を過ぎてしまうと請求権が消滅してしまいます。
特に驚くべきは、不倫のタイプによって時効期間が異なる点です。
さらに時効の起算点も状況によって変わるため、正確な知識がないと請求のチャンスを逃してしまうかもしれません。
この記事では、不倫慰謝料請求の時効について詳しく解説していきます。
これから説明する内容は法的知識がない方でも理解できるよう、わかりやすく解説しています。
不倫問題でお悩みの方は、時効に関する正しい知識を身につけて適切な対応ができるようにしましょう。
不倫慰謝料請求の時効とは?
不倫慰謝料請求の時効とは、不倫の被害者が加害者(配偶者や不倫相手)に対して慰謝料を請求できる期間のことです。
この期間を過ぎてしまうと、法律上の請求権が消滅してしまうため注意が必要です。
実は多くの方が「不倫が発覚したらいつでも慰謝料請求できる」と思っていますが、それは大きな誤解なのです。
不倫の慰謝料請求には法律で定められた時効期間があり、その期間を過ぎると請求できなくなります。
民法では、不法行為に基づく損害賠償請求権(慰謝料請求権)は、被害者が加害者と損害を知った時から3年、または不法行為の時から20年で時効が完成します。
つまり、不倫という不法行為による慰謝料請求も同じ時効の制限を受けることになるわけです。
時効の起算点は「不倫の事実を知った日」から数えますが、この「知った日」の解釈は状況によって異なるため、後ほど詳しく説明します。
- 不倫の事実を知った日から3年間
- 不倫が行われた日から20年間(除斥期間)
時効が成立すると、裁判で「時効の援用」をされた時点で請求権が消滅します。
たとえ確かな証拠があっても、時効期間を過ぎてしまうと慰謝料を請求することはできなくなるのです。
このように不倫の時効は単純ではなく、いくつかの条件や例外も存在するため、正確な知識を持っておくことが大切です。

不倫の時効はケースによって違う
不倫の時効は一律ではなく、ケースによって異なるポイントがあります。
これから詳しく見ていきましょう。
不倫の時効は基本的に3年
不倫による慰謝料請求の時効は、基本的に「知ったときから3年」とされています。
この「知ったとき」とは、不倫の事実と加害者を知った時点を指します。
つまり、パートナーの不倫を発見し、かつ不倫相手が誰なのかを知った日から3年間が時効期間になるわけです。
この3年間は民法第724条に基づく「消滅時効」と呼ばれるもので、この期間内に何も行動を起こさなければ請求権が消えてしまいます。
ただし、時効はすぐに成立するわけではなく、相手が「時効の援用」をしたときに初めて効力が発生します。
時効の援用とは、「もう時効だから請求に応じない」と相手が主張することです。
もし相手が時効を主張しなければ、3年を過ぎても慰謝料請求が認められる可能性があります。
請求する慰謝料の名目で起算日が異なる
不倫による慰謝料請求には、主に「婚姻関係破綻による精神的苦痛」と「不法行為による精神的苦痛」の2種類があります。
この2つでは、時効の起算点が異なります。
婚姻関係破綻による精神的苦痛の場合は、離婚が成立した日から起算します。
一方で、不法行為による精神的苦痛の場合は、不倫の事実を知った日が起算点となります。
同じ不倫事案でも、請求する慰謝料の種類によって時効の起算日が変わるということを理解しておきましょう。
慰謝料の種類 | 時効の起算点 | 時効期間 |
---|---|---|
婚姻関係破綻による精神的苦痛 | 離婚成立日 | 3年 |
不法行為による精神的苦痛 | 不倫を知った日 | 3年 |
この違いを理解していないと、「離婚は成立していないから時効はまだ始まっていない」と誤解してしまうケースもあります。

パートナーに慰謝料を請求できる期間は3年
不倫をしたパートナーに対する慰謝料請求も、基本的に知ったときから3年です。
配偶者に対する請求は、婚姻関係の特性上、不倫相手に対する請求とは少し事情が異なります。
例えば、不倫が発覚してもすぐに離婚せず、和解を試みることがあります。
このような場合、和解の交渉期間中は時効が進行しないと考えられることが多いです。
しかし、これは状況によって判断が分かれるため、長期間放置するのは危険です。
また、裁判例では「不倫が継続している間は時効は進行しない」という考え方もあります。
つまり、長期間にわたる不倫の場合、最後の不倫行為から3年とカウントされることもあるのです。
不倫相手を特定できなければ除斥期間は20年
不倫の事実は分かったけれど、相手が誰なのか特定できないケースもあります。
このような場合、「加害者を知った」とは言えないため、3年の消滅時効は始まりません。
代わりに適用されるのが、不法行為の時から20年という「除斥期間」です。
除斥期間は時効とは異なり、中断や停止がなく、20年が経過した時点で確定的に請求権が消滅します。
ただし、この20年という期間は非常に長いため、証拠の保存や状況の説明が難しくなる点に注意が必要です。
実際の裁判では、あまりにも昔の不倫について証明するのは容易ではありません。
補足事項:離婚の慰謝料は不倫相手に請求できない
離婚に伴う慰謝料は、配偶者に対してのみ請求できるものです。
不倫相手に請求できるのは、あくまで不法行為(不倫)による精神的苦痛に対する慰謝料だけとなります。
この点を混同すると、不倫相手に対して請求できる範囲を誤解してしまいます。
注意すべきは、不倫相手への請求と配偶者への請求は別物であり、それぞれの時効も個別に進行するという点です。
一方に対して時効が成立していても、もう一方には請求できる可能性があります。
不倫の時効を中断できる
時効の成立を避けるために知っておきたいのが「時効の中断」という制度です。
不倫の時効は、特定の行動を取ることで一時停止したり、最初からやり直したりすることができます。
時効の中断とは、進行中の時効期間をリセットして、再度一から時効期間が進行し始める状態のことを指します。
つまり、不倫発覚から2年経過した時点で時効中断の手続きをすれば、そこからさらに3年間の請求期間が与えられるわけです。
具体的な時効中断の方法としては、裁判の提起や支払督促、差し押さえなどの法的手続きのほか、債務の承認を得るといった方法があります。
例えば、不倫相手に内容証明郵便を送り、不倫の事実を認めさせることで時効を中断できる可能性があります。
時効中断の効果 | 説明 |
---|---|
リセット効果 | それまでの経過期間がゼロになり、新たに時効期間が進行し始める |
期間延長 | 実質的に請求できる期間が延びる |
複数回可能 | 法的に有効な中断行為であれば、複数回行うことも可能 |
民法改正(2020年4月施行)により、従来の「時効の中断」は「更新」と「完成猶予」という概念に整理されました。
しかし、実質的な効果は変わらず、適切な手続きを取ることで時効の完成を防ぐことができます。
時効期間が迫っている場合は、早急に専門家に相談して適切な中断手続きを取ることをおすすめします。
不倫の時効を中断させる4つの方法
不倫の時効を中断させるには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
ここからは主な4つの方法について詳しく解説します。
①裁判で慰謝料を請求する
時効を確実に中断させる最も効果的な方法は、裁判所に訴訟を提起することです。
裁判による請求は、訴状が相手に届いた時点で時効が中断されます。
具体的には、不倫による慰謝料請求の訴訟を地方裁判所や簡易裁判所に起こす形になります。
裁判所に訴状を提出した段階では時効は中断せず、相手方に訴状が送達されて初めて時効中断の効果が生じる点に注意しましょう。
もし相手の住所が不明で訴状を送達できない場合は、公示送達という方法もあります。
訴訟は費用と時間がかかりますが、時効中断の効果が確実である点が大きなメリットです。
また、調停や支払督促なども訴訟と同様に時効中断の効果があります。
②内容証明を送る
内容証明郵便で請求書を送ることも、時効中断の方法として有効です。
内容証明郵便とは、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明する特殊な郵便サービスです。
不倫相手や配偶者に対して、不倫の事実と慰謝料請求の意思を明確に記した文書を送ります。
内容証明郵便は、送った内容と日付が公的に証明されるため、後々の証拠として非常に有効です。
文書には不倫の事実、請求する慰謝料の金額、支払期限などを明記します。
ただし、内容証明を送っただけでは直ちに時効中断の効果が生じるわけではない点に注意が必要です。
民法改正後は、内容証明郵便による請求から6ヶ月以内に裁判上の請求などの手続きを行わなければ、時効中断の効果が消滅します。
③相手に債務を承認させる
不倫相手や配偶者に債務(慰謝料支払義務)を承認させることも、時効中断の有効な方法です。
債務の承認とは、相手が「慰謝料を支払う義務がある」と認めることを指します。
例えば、相手から「慰謝料として○○万円支払います」という念書をもらったり、メールやLINEで支払いの約束を取り付けたりする方法があります。
債務の承認があれば、その時点で時効がリセットされ、新たに時効期間(3年)がスタートします。
ただし口頭での約束は後で「言った・言わない」の水掛け論になる可能性があるため、必ず書面やデータとして残る形で承認を得ることが重要です。
また、一部支払いがあった場合も債務の承認として扱われ、時効が中断します。
例えば慰謝料の一部として10万円が振り込まれてきた場合、残額についても時効が中断されると考えられます。
④差押え、仮差押え又は仮処分
相手の財産に対して差押えや仮差押えを行うことも、時効中断の効果があります。
差押えとは、すでに判決などで確定した債権を回収するために、相手の財産を強制的に差し押さえる手続きです。
一方、仮差押えは判決前でも可能な暫定的な措置で、相手が財産を処分してしまうのを防ぐ目的で行います。
仮差押えは裁判所の許可が必要ですが、本訴前でも実施でき、時効中断の効果が得られるため有効な手段です。
ただし、仮差押えの場合は担保金(仮差押え額の3分の1程度)を裁判所に納める必要があります。
また、差押えや仮差押えは法的手続きが複雑なため、弁護士に依頼するのが一般的です。
これらの方法は時効期間が残り少ない緊急の場合や、相手が支払いに応じる見込みが低い場合に検討する価値があります。
不倫の時効に関するよくある質問
不倫の時効については様々な疑問が寄せられます。
ここでは実際によく聞かれる質問と回答をまとめました。
- 7年前からの不倫が発覚した場合、離婚慰謝料は請求できますか?
- 5年前の不倫行為を自白された場合、時効後でも慰謝料請求はできますか?
- 不貞相手の名前しかわからない場合、時効期間はどうなりますか?
- 過去の浮気の証拠を最近発見した場合の時効の起算点を教えてください。
- 不貞行為による精神的損害の賠償請求の時効はいつからですか?
- 民法改正後の不倫慰謝料の時効期間について教えてください。
不倫慰謝料請求で押さえるべき2つの注意点
不倫に関する慰謝料請求では、特に注意すべき重要なポイントが2つあります。
これらを押さえておくことで、請求の成功確率を高めることができます。
- 不倫の慰謝料請求をするなら早い段階でおこなう
- 不倫の慰謝料請求をする前に証拠収集が必要
不倫の慰謝料請求をするなら早い段階でおこなう
不倫が発覚したら、できるだけ早く行動を起こすことが大切です。
時間が経てば経つほど、証拠が散逸したり、相手の記憶が薄れたりするリスクが高まります。
また、不倫の事実を知ってから何も行動を起こさずに長期間が経過すると、「黙示の同意(暗黙の承諾)」があったと解釈されるケースもあります。
不倫を知った時点から6カ月以内に何らかのアクションを起こすことが望ましいでしょう。
もし相手との話し合いがうまくいかない場合は、弁護士に相談するのも一つの選択肢です。
弁護士に依頼すれば、内容証明の作成や交渉、裁判手続きなどを専門的に行ってもらえます。
早い段階での対応が難しい場合でも、時効中断の方法を利用して請求権を確保することが重要です。
不倫の慰謝料請求をする前に証拠収集が必要
不倫の慰謝料請求で最も重要なのが、不倫の証拠を確保することです。
証拠がないまま請求しても、相手が否認すれば立証が困難になります。
特に時効が迫っている場合は、まず証拠収集に力を入れることが先決です。
有効な証拠としては、メールやLINEなどのメッセージ、写真、ホテルの領収書、目撃証言などが挙げられます。
証拠収集の際は、プライバシーや通信の秘密を侵害しないよう法的な範囲内で行うことが重要です。
違法な手段で証拠を集めると、それ自体が問題になる可能性があります。
証拠が少ない場合でも、配偶者の不倫相手を特定できる情報があれば、裁判所は事実認定の中で不倫の有無を判断することがあります。
自分で証拠を集めるのが難しい場合は、探偵や弁護士に相談するという選択肢もあります。
まとめ
不倫の時効は基本的に「知った時から3年」、「行為の時から20年」という期間が設けられています。
時効が成立すると慰謝料請求権が消滅するため、不倫が発覚したら早急に行動することが大切です。
ケースによって時効の起算点や適用される期間が異なるので、自分の状況に合った対応が必要となります。
時効が迫っている場合は、裁判の提起や内容証明の送付、債務の承認など、時効を中断する方法を活用しましょう。
また、慰謝料請求を成功させるためには、十分な証拠の収集が不可欠です。
不倫問題は感情的になりがちですが、冷静に法的な対応を取ることで、適切な慰謝料を得られる可能性が高まります。
法律の知識に不安がある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。