離婚事由とは?調停や裁判で有利に進めるために知っておくべきこと

離婚を考えたとき、相手が同意してくれないケースは少なくありません。
「もう一緒にいられない」と感じていても、法的に認められる離婚事由がなければ裁判での離婚は難しいのが現実です。
民法で定められた離婚事由は限られており、自分の状況が当てはまるのか不安に思っている方も多いでしょう。
離婚調停や裁判で勝つためには、法律上認められる離婚事由を理解し、適切な証拠を集めることが重要になります。
不貞行為やDV以外にも、実は「その他婚姻を継続し難い重大な事由」という幅広い離婚事由が存在します。
この記事では、あなたの状況に合った離婚事由の見つけ方と、効果的な証拠の集め方を具体的に解説していきます。
離婚問題で悩んでいる方は、ぜひ最後までお読みください。
裁判で離婚を成立させるのに必要となる離婚事由
日本では離婚する際、まず夫婦間での話し合いによる「協議離婚」が一般的です。
しかし、相手が離婚に同意しないケースも少なくありません。
そんなとき、法的手続きとして「調停離婚」や「裁判離婚」という選択肢があります。
裁判で離婚を認めてもらうには、民法で定められた正当な離婚事由の存在が必須条件となります。
離婚事由がなければ、いくら「もう一緒にいたくない」と感じていても、裁判所は離婚を認めない可能性が高いのです。
この記事では、法律で認められる離婚事由や、それを証明するための方法について詳しく解説していきます。
法律で定められた5つの離婚事由
民法第770条では、裁判離婚の根拠となる離婚事由が5つ明確に規定されています。
この離婚事由に該当するかどうかが、離婚裁判の勝敗を左右する重要なポイントとなります。
それでは、裁判で認められる離婚事由について詳しく見ていきましょう。
それぞれの離婚事由について、裁判所がどのような基準で判断するのか、具体的に見ていきましょう。
1:配偶者の不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外の異性と肉体関係を持つことを指します。
裁判で離婚事由として認められるためには、単なる疑いや噂ではなく、具体的な証拠が必要です。
LINE・メール・写真などの物的証拠や、探偵による調査報告書が有力な証拠となります。
ただし、不貞行為があったからといって必ず離婚が認められるわけではありません。
裁判所は「婚姻関係が破綻しているか」という観点から総合的に判断します。
不貞行為後に夫婦関係が修復されていたり、不貞行為を知ってから長期間経過している場合は、離婚が認められないケースもあります。

2:悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、正当な理由なく配偶者を扶養・同居する義務を放棄することです。
具体的には、無断で家を出て生活費を送らない、配偶者を家から追い出すなどの行為が該当します。
離婚事由として認められるためには、単なる別居ではなく「悪意」があることが重要です。
夫婦間の合意による別居や、やむを得ない理由(仕事の都合など)での別居は悪意の遺棄に当たりません。
また、生活費を送っていても同居を拒否し続ける場合や、逆に同居していても生活費を負担しない場合も悪意の遺棄として認められる可能性があります。

悪意の遺棄が認められる事例
裁判で悪意の遺棄と認定されやすいケースには、以下のような事例があります。
無断で家を出て連絡を絶ち、生活費も送金しない |
配偶者を正当な理由なく家から追い出す |
生活費を全く負担せず、家族を経済的に困窮させる |
同居を求めても長期間にわたり拒否し続ける |
DVや暴言などで配偶者が家を出ざるを得ない状況を作り出す |
これらのケースでは、相手の「義務を果たす意思がない」という悪意が明確に見られます。
特に経済的な遺棄は、家計簿や送金記録、銀行明細などの客観的な証拠で立証しやすいのが特徴です。
悪意による遺棄と認められないケース
以下のようなケースは、一般的に悪意の遺棄とは認められません。
仕事の都合(単身赴任など)による別居 |
夫婦間の合意に基づく別居 |
病気や介護などやむを得ない事情による別居 |
DVから身を守るための避難的別居 |
別居していても十分な生活費を送金している場合 |
これらのケースでは、配偶者としての義務を放棄する「悪意」が認められないため、この離婚事由には該当しないと判断されます。
別居中でも定期的に連絡を取り合ったり、生活費を送金している場合は、悪意の遺棄とは認められない可能性が高いでしょう。
3:配偶者の生死が3年以上不明である場合
配偶者の行方が分からず、生死も不明な状態が3年以上続いている場合も離婚事由として認められます。
この離婚事由は比較的シンプルで、配偶者の生死が3年以上わからない状態が継続していることを証明できれば認められます。
証明方法としては、失踪届の提出記録や警察への捜索願の記録、親族や知人からの証言などが有効です。
また、社会保険や銀行口座などの利用状況も生存の痕跡を示す証拠として扱われます。
この事由による離婚を申し立てる場合、裁判所は行方不明者の存否を最後まで確認する努力をしたかどうかも判断材料にします。
なお、失踪宣告(7年間の生死不明で死亡とみなす制度)とは異なる制度ですので注意が必要です。
4:配偶者が重度の精神疾患で回復の見込みがない
配偶者が重度の精神疾患に罹患し、回復の見込みがない場合も離婚事由として認められます。
ただし、この離婚事由は単なる精神的な不調や一時的な病気では認められず、相当に重症で回復の見込みがないと医学的に判断される場合に限られます。
統合失調症や重度の認知症など、長期にわたり正常な夫婦生活が送れない状態が該当します。
この離婚事由を証明するためには、専門医による診断書や入院歴などの医療記録が必要不可欠です。
特に、「回復の見込みがない」という医学的見解が重要なポイントとなります。
ただし、この離婚事由は「病気の配偶者を見捨てる」という側面もあるため、裁判所は慎重に判断する傾向があります。
特に、婚姻期間が長い場合や、申立人が十分な看護・援助を行ってきたかどうかも考慮されます。
5:その他婚姻関係を続けられない重大な事由
上記の4つの離婚事由に当てはまらなくても、婚姻関係の破綻が明らかで継続が困難な場合は「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。
実際の裁判では、この第5の事由が最も広く使われており、様々なケースがこれに含まれます。
以下に代表的な例を見ていきましょう。
①:夫婦の性格が不一致
単なる「性格が合わない」という理由だけでは、離婚事由として認められるハードルが高いのが実情です。
しかし、性格の不一致が原因で長期間の別居状態になっているなど、婚姻関係の実態が失われていることを示す具体的な事実があれば認められる可能性が高まります。
特に5年以上の別居がある場合は、裁判所も婚姻関係の破綻を認める傾向があります。
また、性格の不一致から派生した具体的なトラブル(激しい口論、互いへの無関心など)が繰り返し発生していることを証明できると有利です。
証拠としては、別居の事実を示す住民票や公共料金の支払い記録、第三者からの証言などが有効です。

②:DV・モラハラ行為
身体的暴力(DV)や精神的虐待(モラハラ)は、重大な離婚事由として認められる可能性が高いケースです。
特に継続的・反復的な暴力や、生命・身体に危険を及ぼすような深刻な暴力があった場合は、婚姻関係を継続しがたい重大な事由として認められやすいでしょう。
モラハラについても、配偶者の人格を否定するような言動が継続的に行われ、精神的苦痛を与えている場合は離婚事由となりえます。
DVやモラハラを証明する証拠としては、以下のようなものが有効です。
診断書(怪我の記録) |
写真(怪我の証拠) |
録音、録画データ |
警察への相談記録 |
配偶者暴力相談支援センターなどへの相談記録 |
保護命令の申立書、決定書 |
第三者の証言 |
DVやモラハラの被害を受けている場合は、まず自分の身の安全を確保することが最優先です。
必要に応じて警察や配偶者暴力相談支援センターに相談しましょう。

③:家事や育児に対し協力な姿勢がない
家事や育児に対する非協力的な態度も、状況によっては離婚事由として認められることがあります。
特に、単なる分担の不均衡ではなく、まったく協力しない、または妨げる行為がある場合は重要な判断材料となります。
例えば、育児を完全に放棄する、家事を一切しないだけでなく批判する、共働きなのに家庭内の負担を一方に押し付けるなどの行為が該当します。
この事由を証明するためには、具体的な事実の積み重ねが重要です。
日記やメモなどで非協力的な態度の記録を残したり、第三者(親族、友人、保育園の先生など)の証言を集めたりすることが効果的です。
また、改善を求める話し合いの記録や、カウンセリングなどの努力をした記録も、婚姻関係の修復を試みたという点で有利に働きます。
④:親族間の対立・嫁姑問題
夫婦間だけでなく、義父母や親族との対立も、状況によっては離婚事由になり得ます。
特に嫁姑問題が深刻化し、一方の配偶者が適切に対応しない状態が長く続く場合などが該当します。
例えば、配偶者の親が過度に夫婦の生活に干渉したり、暴言や嫌がらせを受けているにもかかわらず、配偶者がそれを止めようとしないケースなどです。
離婚事由として認められるためには、単なる小さな言い争いではなく、日常生活に大きな支障をきたすレベルの対立であることが重要です。
また、改善を求める話し合いを重ねたにもかかわらず解決しなかったことを示す証拠も有効です。
証拠としては、親族からの暴言や嫌がらせを記録した録音、第三者の証言、カウンセリングの記録などが挙げられます。

⑤:ギャンブルによる浪費や怠惰な生活が続いている
ギャンブル依存症や浪費癖、怠惰な生活態度も、家庭生活に深刻な影響を与える場合は離婚事由として認められることがあります。
特に、家計を破綻させるほどのギャンブルや浪費、働く能力があるのに働かずに家族に負担をかけるような場合は、婚姻関係を継続し難い重大な事由と判断されやすいでしょう。
この離婚事由を証明するためには、以下のような具体的な証拠が有効です。
借金の証明書(借用書、督促状など) |
ギャンブル施設の利用履歴 |
高額な買い物の記録 |
家計簿や通帳の記録 |
失業や転職の繰り返しの記録 |
ただし、一時的な浪費や短期間の怠惰な生活だけでは認められにくく、継続的で家庭生活に重大な影響を与えていることが重要です。
また、改善を求める話し合いや、カウンセリングなどの支援を求めた記録も有利に働きます。

⑥:性的な欲求不満や性的問題行動
夫婦間の性生活の問題も、場合によっては離婚事由となり得ます。
例えば、長期間にわたる性交渉の拒否(いわゆる「セックスレス」)や、不自然な性的要求、性的虐待などが該当します。
特に性的不一致が原因で精神的苦痛を受け続けている場合には、婚姻関係を継続し難い事由として認められる可能性があります。
セックスレスが離婚事由として認められるためには、単なる回数の問題ではなく、以下のような要素が重要です。
長期間(概ね数年以上)継続していること |
理由なく一方的に拒否されていること |
改善の努力(話し合いやカウンセリングなど)をしても状況が変わらないこと |
精神的な苦痛が大きいこと |
証拠の収集は難しい場合が多いですが、カウンセリングの記録や医師の診断書、相談記録などが役立つことがあります。
⑦:犯罪行為による服役中
配偶者が犯罪を犯して服役中である場合も、離婚事由として認められることがあります。
特に長期の服役や、社会的に非難される重大な犯罪の場合は、婚姻関係の継続が困難と判断される可能性が高いです。
この離婚事由を証明する証拠としては、判決文や収監証明書などの公的書類が有効です。
ただし、軽微な犯罪や短期間の服役だけでは認められないこともあります。
裁判所は、犯罪の性質や刑期、犯罪に至った経緯、更生の見込みなどを総合的に判断します。
また、服役中の配偶者との関係性(面会の有無、手紙のやり取りなど)も考慮される場合があります。
離婚に対して相手が合意しない場合の対処法
離婚したいと思っても、相手が応じてくれないケースは少なくありません。
そんなとき、どのように進めれば良いのでしょうか。
相手が離婚に同意しない場合は、まず「離婚調停」という手続きを行うことになります。
離婚調停で合意に至らなかった場合には、「離婚裁判」へと進むことになります。
それぞれの流れや費用、ポイントについて詳しく見ていきましょう。
- 離婚調停の基本的な流れ
- 離婚調停にかかる費用の内訳
- 離婚調停を有利に進めるポイント

離婚調停の基本的な流れ
離婚調停とは、裁判所の調停委員を介して話し合いによる解決を目指す手続きです。
調停の流れは大きく以下のステップに分かれます。
①調停の申立て | 申立書を作成し家庭裁判所に提出します |
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②第1回調停期日 | 当事者それぞれが別室で調停委員に状況を説明します |
③調停委員による仲介 | 調停委員が双方の部屋を行き来して意見を伝えます |
④複数回の調停 | 話し合いを重ね、合意点を探っていきます |
⑤合意または不成立 | 合意に至れば調停成立、難しければ不成立となります |
調停では、離婚の是非だけでなく、財産分与や養育費、親権などの条件についても話し合います。
調停は原則として3ヶ月以内に終了することが目安ですが、複雑な事案では期間が延びることもあります。
調停で合意に至れば「調停調書」が作成され、これは裁判所の判決と同等の効力を持ちます。
一方、合意に至らなければ「調停不成立」となり、離婚裁判(訴訟)に進むことになります。

離婚調停にかかる費用の内訳
離婚調停にかかる費用は、自分で手続きを行うか弁護士に依頼するかで大きく変わります。
費用の内訳について詳しく見ていきましょう。

自分で行う離婚調停の費用は約2,600円
自分で離婚調停を行う場合、基本的な費用は申立手数料と郵便切手代のみです。
申立手数料は1,200円(収入印紙)で、郵便切手代は裁判所によって異なりますが、概ね1,000〜1,500円程度です。
ただし、自分で手続きを行う場合は、書類作成や手続きの知識が必要となります。
裁判所のウェブサイトや窓口で書き方の案内はありますが、複雑な事案では専門家のサポートがあると安心です。
また、調停のために休暇を取得する必要がある場合は、機会損失も考慮する必要があります。
弁護士に依頼する場合の費用は70〜100万円
弁護士に依頼する場合の費用は、着手金と成功報酬を合わせて一般的に70万円〜100万円程度かかります。
弁護士費用の内訳は以下のようになっています。
着手金 | 30万円〜50万円 |
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成功報酬 | 30万円〜50万円 |
実費(交通費、コピー代など) | 数万円程度 |
弁護士によって料金体系は異なりますので、複数の弁護士に相談して比較検討することをおすすめします。
また、財産分与の金額が高額な場合は、その金額に応じて成功報酬が増える場合があります。
離婚裁判まで進んだ場合は、追加費用が必要になることが一般的です。
費用面で不安なら法テラスの利用も検討
弁護士費用の負担が難しい場合は、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度の利用を検討しましょう。
この制度は、一定の収入・資産基準を満たす方を対象に、弁護士費用の立替えを行ってくれます。
立替えた費用は原則として分割返済する必要がありますが、無利息で返済できるため、経済的な負担を軽減できます。
利用するには、法テラスの事務所で面談予約をし、収入・資産を証明する書類を提出する必要があります。
また、各地の弁護士会では初回無料相談や低額の法律相談を実施していることもあるので、活用するとよいでしょう。
離婚調停を有利に進めるポイント
離婚調停では、事前の準備と戦略が重要です。
調停を有利に進めるためのポイントを見ていきましょう。
まず最も重要なのは、離婚事由を裏付ける証拠の収集です。
相手の不貞行為や暴力、モラハラなどの証拠があれば、調停での立場が強くなります。
また、調停では感情的にならず冷静に対応することも大切です。
以下のポイントを意識すると、調停を有利に進められる可能性が高まります。
証拠の準備 | 日記、録音、写真、メールなど具体的な証拠を整理する |
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条件の整理 | 財産分与や親権など、譲れる点と譲れない点を明確にする |
冷静な対応 | 感情的にならず、論理的に自分の主張を伝える |
弁護士の活用 | 複雑な案件では専門家のサポートを受ける |
生活の自立 | 経済的・精神的な自立を進めておく |
特に証拠収集は、プライバシーや法律に違反しない範囲で行うことが重要です。
盗聴や無断での録画など違法な手段での証拠収集は、裁判所で認められないだけでなく、法的責任を問われる可能性もあります。
また、子どもがいる場合は、子どもの最善の利益を考えた提案をすることも有利に働きます。

よくある質問
離婚事由に関して読者からよく寄せられる質問について、簡潔に回答します。
- 民法で定められている法定離婚事由とは何ですか?
- 性格の不一致で離婚するための具体例を教えてください。
- 別居期間はどのくらいあれば離婚事由として認められますか?
- 不貞行為が離婚事由となる条件について教えてください。
- 悪意の遺棄の正確な意味と事例を教えてください。
- 子供がいる場合の離婚理由で認められやすいものは何ですか?
- レス(性交渉の拒否)は離婚事由になりますか?
- モラハラや精神的DVはどのように証明すれば離婚事由になりますか?
- 配偶者の浪費や借金は離婚の正当な理由になりますか?
- 離婚裁判で最も認められやすい理由はどれですか?
まとめ
離婚を考える際、相手が同意してくれないケースでは法定の離婚事由の存在が重要になります。
民法で定められた5つの離婚事由(不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、重度の精神疾患、その他婚姻継続困難な重大事由)のいずれかに該当することを証明できれば、裁判でも離婚が認められる可能性が高まります。
中でも「その他婚姻を継続し難い重大な事由」は幅広いケースを含み、DVやモラハラ、性格不一致による長期別居、親族トラブル、ギャンブル依存なども該当する可能性があります。
離婚調停や裁判で有利に進めるためには、事前の証拠収集と準備が非常に重要です。
必要に応じて専門家(弁護士)のサポートを受けることで、より円滑に手続きを進められるでしょう。
どんな状況であれ、感情的にならず冷静に対応し、特に子どもがいる場合は子どもの福祉を第一に考えた判断をすることが大切です。